どこがという訳じゃない。
あえて言うなら全てだ。


俺があの屑で出来損ないで劣化でどうにも俺に似ていないはずのレプリカに惚れるなんて天地がひっくり返ったっててそんなことはありえないのに、現に屑レプリカたちが泊まっている宿に来ている時点で俺はおかしいのだろう。

大方、レプリカ情報を抜かれたときにどこかイカレちまったのか。
こんな場面奴等に見つかったら一生馬鹿にされる。

大体、愛というものは国境を越えることは知っているが、性別の差を乗り越えたという話は生まれてこの方聞いたことが無い。
それでも現在進行形でそれを成そうとしている俺はオールドランドの歴史に永遠に刻まれそうで恥じなことこの上ない。

さっさと此処から立ち去れば事はそれで終わるというのに俺の足は一向に動いてくれる素振りを見せない。
足と地面が溶接か接着されてしまったかのように頭では動けと命令しているのに動作が伴わない。

宿へ入る人、宿から出る人が動けない俺のことを一瞥しては去っていく。
時折、どうしたと声を掛けてくる者もいたが俯く俺の顔を覗き込むなり、ひっと声を上げて逃げていく。

そんな状態でも鏡が無いから俺はどんな表情をしているのかさえも分からない。





「ちょっと出てくるよ」

嫌というほど聴き慣れた自分に似てそれでない声を宿の扉越しに聞く。
今すぐ逃げ出したい思いは高まる一方だというのに、この場から離れられない。
少し足を動かして近くの路地に身を隠してやり過ごせば、明日からはきっと今までと何も変わらぬ日々が待っている。


何の変哲も無い扉がぎっという音を立てたのに顔を上げれば、そこにはよく似てない鏡が現れた。
そして俺は最後の機会を失ったことを知った。




「え…っと、アッシュ…なんでこんな所にいるんだ…」
しばらくお互いに顔を見合わせたあと、最初に口を開いたのはレプリカの方だった。

「俺がお前の前にいたら何か不都合でもあるのか」

違う。そうじゃない。


「べ、別に無いけど、アッシュも今日此処に泊まるのか?」
「誰がお前達と一緒の宿に泊まるか」

いつものくせで俺の口からはそんな言葉しか漏れない。
これでも元はバチカル貴族だというのに、口の悪さは誰に似てしまったのか。


「じゃあ何でこんな所にいるんだよ…あ、誰かに会いに来たとか?」

そう。俺は会いに来た。

「ナタリアなら部屋にいると思うし、難しい話ならロビーにジェイドがいたはず…俺がいるとアッシュが不機嫌になるし、ちょうど出かけるところだったからもう行くよ」

行くな。消えるな。俺の前から。俺の視界から。
そう思ったらいつの間にか俺はレプリカの腕を掴んでいた。

「な…んだよ。まだなんか用があるのか?」

大有りだ。俺にとっちゃ人生何回繰り返しても清算できない大博打な用が残ってる。
黙って腕を離さない俺にその心境を理解していないレプリカが珍しく眉間に皺を寄せている。




「いつまで掴んでるんだよ。いい加減離せ…「誰が離すか屑が! お、お前のことが好きだ!!!」」
そう言ってずっと握り締めてた花束を突き出せば、きょとんとした顔で花と俺とを交互に見比べている。

「お、俺?」
未だに理解していないレプリカに、そうだと言ってやれば顔を真っ赤にして勢いよく俺の腕を振りほどくと逃げるように人混みへと消えていった。






























「やれやれ、お熱いですねぇ」
一世一代の告白の返事ももらえずにレプリカに逃げられた俺はその場に立ち尽くしていたが、予期しない声が聞こえた方を向けば、あの眼鏡が宿の扉の隙間から覗いていた。

何見てんだ!クソ眼鏡が!
絞牙鳴衝斬!




ゴメンなさい。90%ノリで書きました。アッシュの告白。
加筆する可能性大。



人生最大の賭け 2007/02/20