「はぁ?何で俺がそんなことしなきゃならない訳?」
その一言に周囲は固まった。
恐れ多くも此処は光の王都バチカルの最も高い位置にあるバチカル城の謁見の間。
言うまでもなく、此処にはキムラスカ・ランバルディアを治めるインゴベルト六世を初め、
王女ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディア、内務大臣のアルバイン、ローレライの大詠師モース、
そして王室と姻戚関係があり、仰天発言をかましたルークの父でもある公爵クリムゾン・ヘアツォーク・フォン・ファブレもいる。
その中でルークはインゴベルトが与えようとした「親善大使」という任務を一蹴した。
傍に控えている近衛兵も兜で表情は見えないが、
この事態にどうしたらよいか分からないようにいつもの直立不動ではなく様子を伺っている。
「叔父上、耳が遠くなりましたか?返事がなかったようなのでもう一度聞きます。
何で俺がわざわざマルクトとの親善のためにアクゼリュスとかいう瘴気が溢れた所に行かなきゃならない訳?」
今度こそ、謁見の間は凍りついた。
『親善大使がゆく』
「ル、ルーク…」
あまりの言葉に誰も言葉を発せ無かったが、唯一声をかけた者が居る。ガイだ。
「だってよぉ。いきなりこの冷血女のせいで、邸からマルクトに飛ばされて、乗る馬車間違えて、
そんでもって着いた村では泥棒扱いされて、ブタザルを連れて行くことになって、
そしたら次はこの陰険眼鏡に捕まって、それで親善のために力を貸してくれとか頭を下げる。
タルタロスですぐに帰れると思ったからしぶしぶ了承したら、
今度はそこの太ったおっさんの命令だかなんだか六神将とか言うのに襲われて、
殺したくも無いのに人を殺しちまったし、ガイと師匠は来るのが遅せーし、アッシュとか言うやつに殺されかかるわ、
コーラル城だっけか、古い別荘で変な音機関にかけられるわ、
それでやっと帰ってきたら今度はまたアクゼリュスへ行けだ?冗談じゃない。
昨日帰ってきて休む暇も無く今日もう行けって?ふざけんな!
俺はもうくたくたなんだつーの。足に豆はできるし遠出なんか二度と行きたくねぇ。
とにかく俺はとっとと邸に帰って寝たいんだっつーの」
一気に言葉を吐きながら冷血女ことティア、陰険眼鏡ことジェイド、使えない使用人ガイ、
太ったおっさんことモースを順に指差す。
あ、一人忘れてた。俺としたことがうっかり。
「ついでに、玉の輿狙いのマセガキがしつこいの、ウザったいのなんでバチカルに出入り禁止しといて。」
「ルーク!」
これでようやく帰れると思った瞬間、玉座の方からものすごい勢いで名前を呼ばれる。
誰かは顔を見なくても分かる。
「その態度はなんですの!貴方はキムラスカの蒼き血が流れていることをお忘れですか?
今回のアクゼリュス救助のことも民の事を思えばのことです。大体あなたはいつも王家の人間であることを意識してるのですか?
民の声を聞き、民のために成せることをする。それが王家の人間の義務であり責任です。
いくらアクゼリュスがマルクトの領地であれ、瘴気で困っている民を見殺しにすることは私には出来ません。
それを貴方は疲れたからとおっしゃってアクゼリュスに行かないつもりですの?」
さすがはナタリアと感心するも、このままでは帰れそうにも無い。
「だって、ウゼーもんはウゼーんだからしょうがないだろ。大体お前、血が青かったらこえーだろうが。
それともナタリアの血は青いのか?俺は赤だけどな。
それに加えて、王家の人間だぁ?17になるまで軟禁されてて外のことなーんにも知らない俺にいきなり親善大使なんか任されたってできることなんか知れてるつーの。
ああ、行ったら行ったで瘴気でまた記憶喪失になるかもしんねーし、第一、体に悪いんだろ瘴気って。
だったら、なおさらそんな所に行きたくねぇ」
もはやこの場でルークに声をかけられる人物は一人も残って居なかった。
お偉いさん方はずっと固まったままだ。
「そういうわけで、アクゼリュスへの親善大使はさっきから行きたがっているそこのナタリアにでも頼んでください」
勝ち誇った満面の笑みで、そう言い残して謁見の間から出る。
第六譜石に書かれた預言なんか知ったことか。
そういやヴァン師匠が捕まったままだけど、あんなに強いんだから自力で出れるだろ。
「よし!俺は寝る!」
城から出たところで決心したら、門番に変な眼で見られた。いいさ、慣れてるし。
邸に帰ったその日のうちに、インゴベルト以下あの場に居た全員にアクゼリュスに行ってくださいとお願いされた。
国王自らがお願いしに来るなんて、預言って有る意味すげーなと思ったことは秘密だ。それをしぶしぶ了承した俺も俺だが。
勿論、ごねて出発を3日後にしたのは言うまでも無い。
あー、アクゼリュス間に合うかなぁ…。
まぁ、どうでもいいけど。
一度はやってみたかった親善大使。
親善大使がゆく 2007/01/16(拍手)
拍手お礼入れ替え 2007/02/25