扉の向こうには母上と父上が席についていたけど、俺を見るなり驚いて席を立った。
「アッシュが二人…まさか…」
「…ルーク…?」
母上の言葉に父上もはっとした顔で俺を見る。ああ、やっぱり分かってしまうものなんだなって思った。血の繋がりはないけど、七年間この邸で暮らしてきた、そして育ててもらったのは親子と呼べるものなのかな。
そんな風に考えていたら横から肘でこつかれた。
「…父上、母上。ただいま帰りました」
なんて言っていいか分からなかったけど、無難そうな言葉を選んだ。
「ルーク、ルークなのですね」
「はい」
答えてすぐに母上は駆け寄ってきて俺を抱きしめてくれた。涙を流しながら。父上は俺と同じように言葉を捜しているようだったけど、やがてポンと俺の頭に手をのせて、よく帰ってきたって言ってくれた。ああ、これが家族の温もりって奴かな。
だけど、あんまりにも母上がぎゅうぎゅう抱きしめてくるものだから苦しくなってきた。アッシュから最近体調がよくないって聞いてたけど、全然そんな素振りには見えなかった。
「母上、そのくらいにしておいてあげてください」
良い所で、助け舟が入った。なんとか俺は母上の厚い抱擁から逃れ、席につくことができた。
「それでは、皆揃っての朝食としよう」
父上の一言で、ラムダスやメイド達が朝食の支度を始める。いつもの見慣れた光景なのに懐かしく感じるのは何故だろう。
支度の様子を見ているうちに不思議なことに気づいた。俺の分がキチンと用意されている。俺が帰って来たということは今この場で初めて明らかになったはずなのに。どうしてだと思っているとラムダスと眼が合った。支度に追われながらも彼が軽く頭を下げたのを見て、俺は直感した。
食事中は父上と母上にも、アッシュに話したように帰って来た経緯を話した。途中、一ヶ月程ケセドニアに居たことを話すと、母上にどうしてすぐに帰ってきてくれなかったのですってぼろぼろ泣かれてしまったので、宥めるのに苦労した。
食事もそろそろ終わるかという時に、応接間の扉が勢いよく開かれた。見れば、何人もの白光騎士やメイド、使用人たちが倒れこんでいる。
「なんだ、お前達、食事中だぞ」
父上が声を荒げて言うものだからラムダスが急いで皆を下がらせようとしたけれど、あとからあとからそれは増える一方で、終いにはもう一方の扉からもなだれ込んできた。
さすがにラムダス一人では収拾がつかないみたいだからアッシュが席から立って訳を聞きに行くと皆口々にルーク様が帰ってこられたと聞いたので…と答える。
俺と母上は顔を見合わせその光景に苦笑していたが、そう言われては仕方が無いので俺は席を立つ。
「ただいま、皆」
それだけ言うと、何人かの眼には涙が溜まっていくのが見えた。う…うう…と嗚咽を漏らしている者も居る。
『お帰りなさいませ。ルーク様』
邸中から歓声が上がり、もみくちゃにされながらも俺は幸せってこういうものなのかなって思った。
還って来て初めての朝食はなんだか騒がしいものになった。
ようやく朝食です。しかもこれ前編。
ラムダスの気遣いが形となって現れる場面でもあります。
…アッシュがあんまりしゃべってないなぁ。
待ちわびていた人たち 2007/02/27