きっと、
物事の始まりと終わりは全部決まってて、そこからはみ出すことも出来ないし、短く終えることも出来ない。
だから、その中で精一杯生きるしかないんだ。
背伸びしても視点がちょっと高くなるだけで何も変わらない。
だとしてもちょっと違う世界が見たくなる。そんなことは日常茶飯事。
だからあそこに行ってみたかった。
惹かれるような思いがあるのは気のせいじゃない。
呼んでいるんだ、あそこで。
昇降機に乗って一気に頂上につけば、そこから見える景色はこれ以上無いほど綺麗で、何処までも見渡せる気がした。ほんのちょっと前まであった空を覆う瘴気は消え失せ、青い空と海と緑豊かな大地が広がっている。
バチカルはどこだろうと探して、それらしきものを見つけては、次々旅の途中で訪れた場所を探していく。山の陰になっていたりして見えない街もあったけれど。
「こんな所で何してやがる?」
後からかかった声はせっかくの雰囲気が台無しになるぐらい。
昇降機が上がってくる音は夢中になっていたせいか気づかなかった。
「ん…見納めに…な」
「何が『見納め』だ。死ぬわけじゃあるまいし。いつでも見に来れるだろうが」
ああ、そうだ。アッシュは知らないんだ。俺がもうじき消えていなくなるってこと。どうせ俺が消えたって弔いもせず、悲しみもせず彼は彼のまま生きていくに違いない。
「そういうお前こそ何しに来たんだよ。もう、此処には何も用ないはずだろ?」
「お前の仲間がお前を探し回ってて、その場に偶然居合わせちまったからだ!」
振り向いて問いかけた答えはいかにも不本意って感じに見えたけれど、それは確実に嘘。
ガイ達にはちゃんと言って来てある。
だから、探されてるなんて嘘。もう少しマシな嘘をつけ。
でも、アッシュが此処に来た本当の理由は分からない。
あ、もしかして俺、心配されてる?自惚れていい?
な〜んてな。
「それはゴクロウサマ」
「分かったらさっさと帰れ」
もう少しだけ見ていたかったのにな。本当に見納めだから。タイムリミットあと僅かのこの身体はいつまで持ってくれるだろうか。もしかしたらあと一歩踏み出しただけ、一呼吸しただけで消えてしまうかもしれない。こうしている間にも第七音素からぽろぽろ抜け落ちていくのが分かる。
それでも平然を装わなきゃいけない。いつも気が抜けないっていうのはかなり疲れる。
一人でいられる時間が欲しかったのにそれさえも俺は奪われてしまうのだ。
「ああ。でも、あとちょっとだけ」
俺が第七音素になって還る世界をじっくり見ておきたかった。もう二度と無いだろうから。
「何度も言わすな!屑が!…帰れ!」
「あ〜はいはい。分かりました。帰ります。今すぐ帰ります」
此処には喧嘩しに来たわけでもないから、早々に退散することにした。あのまま言い合ったって話は永遠に平行線で決して交わることは無い。
下りるための昇降機を作動させようとしたらアッシュが入れ違いに降りようとするから驚いた。俺を探しに来た(彼曰く)のならもう用は無いだろうに。
「おい!帰らないのか?」
「何で俺がレプリカと一緒に帰らなきゃならない」
そうだ。彼はそういう性格だった。俺のこと大嫌いなんだ。本当は見るのも嫌だけど今は仕方ないから顔を合わせてるだけ。
「そう…か…」
ガコンという音を立てて昇降機が作動し、彼との距離は開いていく一方だった。
塔の出口に立って上を見上げれば、まだ彼は頂上にいるようで紅がかすかに見えた。
きっと俺は彼を必死に追い続けても背中さえ見えずに終わる運命なんだ。それが俺とアッシュの距離で天と地ほどもある。俺は一生彼を見上げて終わるんだ。
あともう少しだけ。そこから俺を見下ろしていてくれ。
そして、全てが終わったら時々でいいから空を見上げてくれ。
そこに俺は居るだろうから。
場所がレムの塔ってすぐに分かった人はすごいかもしれない。
結局アッシュは何しに来たか不明でしたが、フォンスロットの繋がりを利用してルークの居場所特定。一人っぽいので心配になって見にきました。
残ったのは彼も「見納め」をしたかったから。
(アッシュは自分が消えるものだと勘違い中)
空に吸い込まれた願い 2007/03/21