あっけなく勝敗はついた。信念が揺るがない奴はこんなにも強かったのか。
ローレライ教団特務師団長として生きてきた日々は何だったのか。
がっくりと膝を折り、息も絶え絶えになりながら、それでも無様に倒れるわけにはいかなかった。
地に突き刺した剣にすがりながら奴を見上げる。
「良い気味だろうな。この俺に、被験者に勝てたんだからな!」
アイツはこんなにも強かったか。いや、それならば何故あの時自分は勝てたのだ。
血を流しすぎたせいか思考がうまくまとまらない。
分かるのはコイツに負けたということ。それは事実だ。
「アッシュ…」
「何だ?そんな眼で俺を見るな!同情なんかいらねぇ!」
キッと睨みながら眼の前にいるやつに吐き捨てるように言った。
それでもコイツは表情を変えることはない。
「名が欲しいんだろう。お前は俺に勝ったんだ。『ルーク』はお前のものだ」
コイツを見るのも忌々しい。独りになりたかった。
「違うよ。俺が貰うのは『アッシュ』の名前。」
「はっ!俺から居場所と名前を奪った奴がまた俺から奪う気か!俺から何もかも奪う気か!」
「違うよ。違う」
「何が違う!お前は『ルーク』だけじゃなく、俺から『アッシュ』さえも奪うんだ!」
俺には何も何処にも居場所はないというのか。奪われて奪われてやっと手に入れた場所さえも。腹立たしさだけが俺を動かす。
憎しみだけが俺を動かす。
「違う。俺は『アッシュ』を貰う。だから『ルーク』は返すよ。いや…元々お前のものだ。俺は奪ってない。奪えなかった」
「今、初めて俺は名前を得た。」
「だから、お前は『ルーク』として生きろ」
俺は神の声を聞いた気がした。
望んだものはいつも俺と共にあったのだ。手を伸ばさなかっただけだ。
朝日が渓谷に射し込む頃、全ての決着がついた。
サイト公開当初に考えていた長編のプロローグです。
本来の結末を違う方向に持っていくとしたら、この時期に二人が何かしていなきゃならないと思ったのがきっかけ。
補足までに書くと、アクゼリュス後、ユリアシティでアッシュに負けたルークですが、
ダアトからイオンとナタリアを助け出したあと、こっそり仲間から離脱。タイミングはダアト港に着いたぐらい。
連絡船に乗ってケセドニアへ。そこでアッシュとばったり再会。
生きる。ただそれだけのために 2007/03/31