あいつはあいつで。俺は俺。
違う存在だと改めて思い知らされた。
まだ心の何処かで師匠と慕っていたヴァンが築いた栄光の大地−エルドラント−
そこでの戦いは俺にとって忘れられないものだ。永遠に。
傷つけ合うなんてことはお互いの理解を踏みにじるもの。最低の行為。
それでも傷つけ合わなくてはならなかった。
そしてようやく分かった。あいつはこんなにも俺と同じで俺と違う。
本当は…
本当は、グランコクマでの言い合いで気づいていたはずなのに俺はそれを許さなかった。
認めたくなかった。直視できなかった。だから眼を背けた。
俺の居場所を奪ったあいつを恨み、憎むことが俺をここまで突き動かしてきたものであったから。
今なら分かる。あいつがどんな思いで俺に接してきたかが。
初めて顔を合わせたとき。
ユリアシティで剣を交えたとき。
雪の降るケテルブルクでアイツに決心を促したとき。
父上と母上に再会させられたとき。
…レムの塔でのとき。
そしてグランコクマ…
今更分かったところで手遅れだ。
伝えなければならない相手はここには居ない。
いや、世界中何処を探しても居ない。
記憶だけにしか残っていない相手に伝える手段はない。
あいつは俺に無いものをたくさん持っていた。
居場所、母上、父上、ガイ、師匠、次期王位継承権。
それだけじゃない。それは俺が思いつくものだけだ。実際は違う。
優しさ、笑顔、相手を気遣う心。全て俺が手に入れようともせず失ってしまったもの。
もし、
俺がルーク・フォン・ファブレとして生き続けていたらそれらは手に入れられただろうか。
…答えはNOだ。
仮定すること自体が無意味だ。
あいつだからこそ手に入れられたのであって、俺には到底届かぬもの。
それを俺は未練がましく俺のものになるはずだったと嫉妬していたのだ。
あの時、何をしていれば良かったのだろう。
どこかで違う道を選んでいたらお前は今、隣に居ただろうか。
俺の至らないところを助けてくれただろうか。
考えれば考えるだけそれは無駄だと知る。
今、俺はお前を糧にしてここに居る。
お前の救ったこの世界に居る。
お前が見たかった世界にいる。
でも、世界はお前を見なくなる。忘れていく。
つらいだろう。悲しいだろう。悔しいだろう。憎いだろう。やりきれないだろう。
世界を救ったのはお前なのに。
讃えられるべきはお前なのに。
俺を生かしてくれたのはお前なのに。
俺が生き続けている限り、皆忘れていく。
俺の存在がお前を殺していく。
バチカルから少し離れた海の見える岬。
頬を掠めてゆく潮風が心地良い場所。
此処だってお前のための碑なのにもう誰も見向きもしない。
墓はもう邸にはない。俺が還って来て早々に此処に移された。表向きは誰でも訪れるように、と。実際の事情を俺は知っていた。それなのに止められなかった。
建てられた頃は世界を救った英雄だのなんだの騒ぎたてて、訪れる者は後を絶たず、盛大に華を手向けられた。
少しだけ羨ましくも思った。お前はこんなにも世界と関わりを持って、いろんな人から惜しまれて、お前のために泣いてくれる人がいる。
それが一人減り、二人減り、
今ではこの有様だ。
こうして俺が来なければ誰も手入れをしにこない。・・・誰もだ。
お前も見守ってきた
幼馴染のナタリアも。
心の友兼元使用人のガイも。
あれだけ仲間だと言っていたティアも、ジェイドも、アニスも。
母上はともかく、父上でさえも、
皆、忙しいという理由をつけて来ない。
本当はもうお前のことなどどうでもいいと思っているに違いない。
それでも、俺は…俺だけは忘れない。
俺が生きている限り、お前はここに居る。
忘れない。もう一人の俺。もう一人のルーク・フォン・ファブレ。
俺の最期はお前の傍で。
お前の笑った顔がもう一度見たかった。
アッシュ帰還ルートでの数年後の話です。
場所としては、バチカルの東辺り。
アッシュが生きていることがルークが生きていた証拠になるので、彼はルークのために生きます。
アッシュはアッシュのままです。ルークに改名してたりしません。理由は…
本当はアッシュが泣いてたり、花を手向けたりする案もあったのですが、没。
どうにも似合わない。
残酷なまでの現実 2007/01/12
加筆修正 2007/01/20