名前のない俺が俺であるためには名前が必要だ
まずは俺の名前を本当に手に入れなきゃならない。
だから俺はもう一度アッシュと『ルーク・フォン・ファブレ』と戦わなきゃいけない。
俺が俺として生きるために。『ルーク』が『ルーク』として生きるために。
譲られたものじゃなく、棄てられたものでもない。俺が俺のために勝ち取るんだ。
ばったりケセドニアで会ったアッシュにそう告げたら、良く言った。それでこそ俺のレプリカだと不敵な笑みを浮かべて言った。同時に俺には絶対に勝てねぇとも。
セレニアの花が咲き乱れる夜の渓谷は綺麗だ。前に来た時とは随分状況が変わった。
ここを選んだのは俺の始まりの地だから。俺の世界が一変した場所だから。
アッシュは待っていたに違いない。
居場所も名も与えたレプリカが成長するのを。
七年…自分の時計が止まったままなのを気付かずに。
「来たか、レプリカ」
ほら、まだ気付いてない。
アッシュは待っていた。
深紅と夜の闇と白い華が映える。渓谷で。
以前のようにはいかない。俺は俺であるために。アッシュに、『ルーク』に挑むのだから。
生きる…そのただ一つの信念を持って。
たとえ劣化品だと言われてもそれだけあれば、傲り高ぶった被験者に負ける気はしなかった。
そうして俺は名を手に入れた。この手に勝ち取った。
「アッシュ」という名を。『聖なる焔の光の燃え滓』という名を。
俺が望んだ名を。
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生きる。ただそれだけのために 2007/03/31